♪音楽千夜一夜 第147夜
これまでカルロ・リッツィという人はあまり聴いたことがなかったのですが、なかなかオペラには適した指揮でネーデルランドの管弦楽団を鮮やかにドライヴしています。
幕ごとに乗りが良くなってくるこの見事な伴奏を下敷きにして、悪玉保安官のルチオ・カルロ、強盗犯の悪人だけれども善玉に回心したソラン・トドロビッチ、そして今夜のヒロイン、ミニーを立派に演じ切ったエファ・マリア・ウエストブルックがプッチーニの次第に無調に傾きかけた美しい旋律を見事に歌いきるのです。
脚本はどうみてもでたらめで、いくら西部の荒くれ男たちが酒場のアイドルミニーちゃんにどれほどお世話になっていたにしても、クライマックスでどうして強盗犯のヒーローが死刑にならずにすむのか理解に苦しむところですが、こういう理不尽な箇所を理不尽と感じさせないために俊才ニコラウス・レーンホフが用意したのは、第3幕の大詰めで登場したミニーの背後に、なんとメトロゴールドウイン・メイヤー映画のあの有名なビギニング・タイトルを映写する!というユニークなアイデアでした。
私も大好きなあのライオンが「ぐおう、ぐおう」と咆哮すれば、満員の観衆もどどっと笑いこけながらそれ以降に展開される愛の救済劇に納得するという趣向です。つまりここでレーンホフはこのご都合主義のリブレットを半分漫画にしながらも、恋人の危機一髪を救うために登場した西部の女を、超法規的に正当化し、もろともにエンジョイしようと提案している。じつにユーモアとウイットに富む賢い演出家と申せましょう。
私はこれまで「西部の娘」はプッチーニの3流オペラだと思い込んでいたのですが、こういう優れた演出と演奏で聴くと、それがとんでもない誤解であったことにはじめて気付かされました。
横顔が母に似ているなと思いながら息子の顔を見ている私の顔 茫洋
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