Monday, January 18, 2010

五木寛之著「親鸞」上巻を読んで

照る日曇る日第322回

五木寛之といえば希代の物語作家、現代の語り部、小説界の井上陽水としてつとにあなどれない力量をみせつけていますが、今度は来年750回の御遠忌を迎えられた親鸞聖人の生涯の物語です。


登場するのは、物語の主人公忠範(親鸞)をはじめ、河原坊浄寛、ツブテの弥七、法螺房弁才、法然、慈円、後白河法皇、その他名もなき多くの山法師、悪僧、雑民、盗人、神人、放免、雑色、車借、馬借、牛飼童、くぐつ、遊行聖、白拍子、遊女、印地、と聞けば、これが歴史的事実に依拠したドキュメントではなく、著者の想像を大胆にふくらませたフィクションであることは一目瞭然でしょう。

その前半は、彼が京の没落した官人の長男に生まれてから、僧として比叡山の横川に上り、あまたの煩悩と闘いながら京の巷の六角堂に磐踞するくだりまでを巻措くあたわざる波乱万丈のビルダングス&ピカレスクロマンとして描きます。

血沸き肉躍るのは赤かむろの統領六波羅王子と河原坊浄寛、ツブテの弥七、法螺房弁才たちの決戦や少年の背中にできた不気味で醜悪な腫れものを蛸のように口で吸いだす主人公、謎のくぐつ女玉虫や高貴な美女紫野の肉の誘惑とたたかう青年親鸞の煩悶等々、読みどころ満載の宗教人情時代小説ですが、比叡の山顚に発した一条の清水が磐根をいっさんに流れ下り、鴨の流れを顔色なからしめる一大大河小説へと奔騰するのかしないのか?

みだのちかいぞたのもしき
じゅうあくごぎゃくのひとなれど
ひとたびみなをとなうれば
らいごういんじょううたがわず

の美しい連祷がどこからともなく聞こえ、後編への期待はいやがうえにも高まります。


 ♪仏とは誰ぞ仏の教えとは何ぞお山を降りし僧の悩みは深し 茫洋
 

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