照る日曇る日第321回
前半はモブ・ノリオの小説「ゲットー・ミュージック」、後半は1986年に内田裕也が平凡パンチで連載したインタビュー記事「ロックン・トーク」の採録という奇妙奇天烈な合体本。しかしてその実態は、モブ・ノリオと内田裕也の、孤独で奇妙なロック・コラボレーションです。
もともとは内田裕也を真正ロッカーとして高く評価しているモブ・ノリオのリクエストに文芸春秋社の奇特な編集者が採算を度外視して応えた労作のようですが、なかなか面白い。
特に裕也が中野洋、野村秋介、堤清二、カール・ルイス、野坂昭如、金山克己、中上健次、小林楠扶、武谷三男、赤尾敏、スパイク・リー、田中光四郎、岡本太郎、立花隆、徳田虎雄、佐藤太治、武智鉄二、山田詠美、田川誠一、戸塚宏、アンドレ金、黒田征太郎などと行ったロックンロール対談は、当時の代表的人物が陸続と登場し、中曽根自民党が304議席で圧勝したあの時代の政治、経済、社会、文化状況を彷彿させてくれると同時に、短い対談ながら、それゆえに彼らの人間像をあざやかに浮かび上がらせいるような気がします。
当時、反体制の旗手であった新左翼やの人々のあまりにも単純明快すぎる主張に不安を覚えたり、身体を張って生きてきた右翼や篤志家の発言に共感を覚えたり、理路整然と現実をさばく評論家の口舌にあきれたり、思想も言説も曖昧模糊とした存在にげんなりしたり、毅然とした政治家の良心に感嘆したり、当の主人公であるロックンローラーの知性と感性の意外なありかが次第に判然として来たり、思いがけない収穫のあるインタビューでしたが、まるで掃き溜めの鶴のように凛としたたたずまいを見せ、裕也を完全に圧倒していたのは紅一点の山田詠美でした。
「ジェシーの背骨」を書いたばかりの頃ですが、まことに魅力的な人物であることがうかがえます。
肝心の「ゲットー・ミュージック」について触れる紙幅がなくなりましたが、このへんちくりんな音楽小説は、秘密の放送局から垂れ流されるDJのエンドレストークという新スタイルを採用しており、その中で著者は、彼が偏愛する内田裕也やフラワー・トラヴェリング・バンド、シーナ・アンド・ロケッツ、深沢七郎、私の大好きなフランク・ザッパなどのインディペンデント・ミュージック・レコードをかけながら、果てしない饒舌の嵐を巻き起こしていることをお伝えして、本日の拙いレポートを終わります。
♪我想人生是Rock´n Roll也 茫洋
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