Thursday, January 07, 2010

池澤夏樹著「カデナ」を読んで

照る日曇る日第320回

1968年の熱い夏に、嘉手納基地のある沖縄で、沖縄人とアメリカ人の4人の男女が、いわゆる「反戦平和」の運動に加担する話です。

反戦運動というのは、具体的には、嘉手納から爆弾を積んでベトナムに向かうB-52の北爆計画を事前にアマチュア無線で教えたり、基地の米兵をそそのかして脱走させ、ソ連経由でスエーデンまで脱走させることですが、こういう政治的活動を、当時若かった、あるいは若すぎた私たちは、前後のみさかいもなく、後顧の憂いもなく、ごく自然にやってのけていたわけですが、(作者にそういう気持ちがなくとも)では、そういう私たちは、いまどこでどうしているのか、と問いかけてくるような気もする小説です。

しかしその筆致はきわめて抑制されたものなので、ある種の聖なる理想と社会改革のために自己の運命を蕩尽しようとする荒荒しい破壊と自己投棄の暴力的な情熱を再現することには完全に失敗しています。もしそれが作者の狙いであるとしたら、ですが。

たとえ1年の365日が曇天であったとしても、ただ1日だけは空が黄金いろに輝いた日が、たしかにあったような気がします。そしてその日、私はまさしく午前10時の太陽であり、若いこと、貧乏であること、無名であることに限りない誇りを持って生きていたと、誰に誇ることもなく静かにつぶやくこともできるのですが、あれらの心躍る冒険を、もう一度、前後のみさかいもなく、後顧の憂いもなく、ごく自然にやってのけることの「不可能」を、なにゆえか、何者によってか、思い知らされているような気がする自分がはがゆく、いささかやるせないのです。

沖縄よ独立せよすべての基地すべてのアメリカー、すべてのヤマトンチューを投げ捨てて 茫洋

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