音楽千夜一夜第105回
ロンドンから中継される「プロムス」も毎年こうやって聞いたり見たりしているわけですが、私がはじめてレコードを買ったコーリン・デイビスの時代に比べると英国という国の衰退に正比例するようにだんだん熱核の放射線を失ってきたようで、なんだかさびしい限りです。
往時のプロムス最終夜の愛国主義の爆発はそれはそれは極東の亡国の民を泣かしむるほどの凄まじさで、アーン作曲の「ルール・ブルタニア」なぞを聞くと、なるほどこれが世界の7つの海を制覇した偉大なる民族の魂の歌か、と腹の底から納得できたものです。
一〇年くらい前の熱血漢アンドルー・デイビス時代はまだその熱波の余熱がユニオンジャックが打ち振られる広大なロイヤルアルバートホールのそこここに滞留していたようですが、一昨年のロジャー・ノリントン辺りになると、ノン・ビブラートで奏でられる終局のエルガーの「威風堂々」は、威風どころか愛国者の心胆を寒からしむ冷たい異風が吹きすさぶ演奏となり、昨年のデーヴィッド・ロバートソンによるBBC交響楽団の演奏もメゾ・ソプラノのサラ・コノリーとトランペットのアリソン・バルサムという二人の女性の熱演こそあったものの、どうにもしまらない指揮ぶりでした。
人間と同様、国家も音楽も、成長から衰退、大国から小国、青春期から老年期、熱狂から冷却という推移を不可避的に辿るのではないでしょうか。
♪興隆しやがては沈む英国の大人の姿大和も辿れよ 茫洋
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