Sunday, January 24, 2010

リッカルド・ムーティ指揮ウィーンで「魔笛」を視聴する

音楽千夜一夜第106回

2006年モーツアルトイヤーにおけるザルツブルク音楽祭の公演をビデオで鑑賞しました。

指揮者とオーケストラはまずは当代一流のもので先代のベームにくらべたらいろいろ文句も言いたくなりますが、古楽器以外の演奏ではこれを凌駕するものは少ないのではないでしょうか。少なくとも凡庸な小澤の指揮にくらべたら、それこそ天国と地獄の違いです。

演出はピエール・オディという人です。1幕の舞台を台本通りに山に設定して、3人の侍女をチロルの服装にしたり、パパゲーノの猿轡をやめたり、魔法の鈴を球に変えたり、2幕のタミーノの試練の場を舞台後方に据え付けた棚上の三段の装置で処理したり、3人の天使の宙釣りや緑・黄・赤・青・紫のブライトカラーによって彩られたモダンな衣装や美術でそれなりの目新しさを演出していますが、いくら目先の変化で創意工夫をしてみても、肝心の歌唱陣が非力ではオペラの感動は生まれません。

タミーノのポール・グローブス、パミーナのゲニア・キューマイア、パパゲーノのクリスチャン・ゲルヘーヘル、ザラストラのルネ・パーペなどがそれなりに歌って演技してはいるものの、ハイライトの「パパパ」の二重唱にいたってもモーツアルト歌劇の霊感はついに訪れず、わずか2つの超絶アリアで圧倒的に気を吐いたのが「夜の女王」のディアナ・ダムラウただひとりとは、まことに寂しい限りでした。

こんなお寒い「魔笛」に対して、世界中から集まった聴衆がやたらブラボーを連呼しているのも馬鹿らしさの限り。モーツアルトイヤーの記念すべき公演とはとうてい考えられません。


♪大枚をはたいて下らぬ公演を見せられてそれでも喜ぶ阿呆な観客 茫洋

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