鎌倉ちょっと不思議な物語第203回
夏といえば海、海といえば由比ケ浜、由比ケ浜といえば鰹、鰹といえば徒然草と山口素堂でしょうか。
兼好法師は徒然草の第百十九段に「鎌倉の海に、鰹と言ふ魚は、かの境ひには、さうなきものにて、この比もてなすものなり」と書き始め、鎌倉の年寄りが、「この魚、己れら若かりし世までは、はかばかしき人の前へ出づる事侍らざりき。頭は、下部も食はず、切りて捨て侍りしものなり」と語ったことを証言し、その低級な大衆魚が「このごろ上さままで入り立つ」有様を例によって「世も末」と切って捨てています。
また江戸時代の俳人山口素堂は、この由比ケ浜にやってきて「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」と詠んだそうですが、御所見直好氏によれば、現在この海岸で獲れる八月の魚は、イシダイ、ボラ、カワハギ、メバル、カサゴ、タカノハダイ、ニザダイ、メジナ、コアジ、カマス、イセエビ、イカナゴ、シコなどであり、ソウダカツオの名はあってもカツオの名前は出てきません。彼の著書「鎌倉路」を調べてみても、春夏秋冬を通じてカツオは鎌倉の魚ではないようです。
しかし御所見直好氏が取材した当地の漁師の話では、戦争中はカツオ船が出ていたそうですが、戦後は絶えてしまったそうなので、もしかすると初夏に出漁すれば、文名高い鎌倉の鰹を一尾くらい釣り上げることができるかもしれませんね。
♪幻の鰹を求め海に出る実朝が乗りしさすらいの宋船 茫洋
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