Sunday, August 16, 2009

神奈川県立近代美術館葉山の「画家の眼差し、レンズの眼」展を見る

照る日曇る日第282回

海水浴の前に神奈川県立近代美術館の葉山分館へ行って「画家の眼差し、レンズの眼」近代日本の写真と絵画展を見ました。

高橋由一の地方の県庁などの絵がたくさん並べてありましたが、いずれもそのトーンの暗さに驚きました。ワーグマンなどから西洋絵画の基礎を学んでいた青年の心中に淀んでいた昏さとは西欧の明るさとの距離に伴う前近代性の自覚から起因するそれだったのでしょうか。

大正時代のはじめに上高地を訪れた高村光太郎が焼岳を背景にした白樺の木立を描いたセザンヌを思わせる油彩画の左隣に、資生堂初代社長の弟で我が国の写真黎明期を切り開いた福原路草の「枯木」というモノトーンの写真が並べてありました。

ほぼ同じころの同じ光景を、いっぽうは画家がリアリスティックに、もう一方では新進気鋭のフォトグラファーがシュール・リアリスティックに切り取ると、これほどにも相反する光景、心象風景が生まれてくるのかという驚きが湧いてきます。

人間の知的営為である画家の眼差しは、無機的なレンズが見ているものとは異なる景を見つめていますが、それを脳と手と道具を使って造形していくうちに、当初画家がとらまえていた景とは異なる次元の景へとどんどん変貌していくはずで、レンズが見た景などとはその出発点においても、経過点においても絶対に交わらないはずなのに、瓜二つの表現形態に落着するケースもあれば、まるで、というか当然のように愛異なる表現として定着されることもある。

写真と絵画。今回の展示は、その思いがけない接触と絶縁の様相を楽しませてくれます。


♪見よ 汝が心中より露頭せしもの 茫洋

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