Wednesday, August 05, 2009

クロード・レヴィ=ストロース著「パロール・ドネ」を読んで

照る日曇る日第280回

「パロール・ドネ」などという正体不明のタイトルですが、なんせあの人類学の最長不倒距離翁クロード・レヴィ=ストロースさんの名著を中沢新一選手が翻訳された「渾身の本邦初訳」とあらば手に取らずにはおられません。

どこが渾身なのかは最後まで不明でしたが、ストロースさんの入魂の1冊であることだけはよくわかりました。つまり本書は現在101歳になんなんとする老学者が、40代の前半から70代の半ばまでの32年間にわたってフランスの高等研究院とコレージュ・ド・フランスで行った壮大にして野心的な超長期連続講義のレジュメ、講義録の簡略なの
です。
つまりパロール(語る)したもんをドネ(与える)したもんね、という題名だったわけですが、それなら「おいらの講義録」でよかったのではないでしょうか。

それはともかく「今日のトーテミズムと野生の思考」とか「生のものと火にかけたもの」「アメリカにおける聖杯」とか「カニバリズムと儀礼的異性装」とか、講義タイトルを眺めただけでいかにもな全世界をまたにかけた人類学の壮大にしてものすごくアカデミックな緻密な研究と考証のうんちくの限りが、延々と、かつまた淡々とつづられてゆきます。

たとえば、と101歳翁は語ります。
「アメリカ5大湖周辺に住む、ニューヨークのこていなホテルの名称にもなったアルゴンキン族ちゅうのんはな、ワグナーはんがかの「パルシファル」で描いた「聖杯伝説」によく似た興味深い神話を保持しておってのお、あるときトウモロコシを馬鹿にするアホな若者のせいで、部族の土地が大飢饉に襲われたんじゃ。ほんでな、とうとうある日、ひとりの英雄が荒地の果てまで冒険の旅に出よったんじゃ。そいでもって彼は老人の姿をしたトウモロコシの精霊―無尽蔵の富を生む大鍋の主―に出会うんじゃ。ところがのお、この老人の姿をした精霊はなんと背骨を骨折しておったんじゃ。しゃあけんどわれらが英雄は、アルゴンキン族の不幸の原因をつきとめ、自分たちの精霊の王を癒すことに成功したちゅうわけよ。めでたし、めでたし」
―「アメリカにおける聖杯1973年~1974年度」より引用し吉本興業風に脚色。

これらあまたの事例から、翁がいかにして魔術的な結論をあざやかに引き出すかは、それこそ読んでからのお楽しみです。


青蛇や青縞光らせ草に消ゆ 茫洋

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