Wednesday, July 29, 2009

フエンテス著「老いぼれグリンゴ」を読んで

照る日曇る日第275回

1842年アメリカのオハイオ州に生まれたアンブローズ・ビアスは「悪魔の辞典」、そして私の大好きな短編小説「空を飛ぶ騎手」の作者として有名ですが、南北戦争に従軍し、ジャーナリストとして活躍した後、2人の息子と妻にも先立たれ、70歳の時、傷心のままメキシコに赴き、そのまま行方不明となりました。

この小説は、この伝説の作家ビアスをモデルに、暴力と革命の地南米メキシコを舞台にした恋と血と詩と死の物語です。「死と呼ばれるものは最後の苦痛にすぎない」とビアスは語ったそうですが、すべてに幻滅したビアスを思わせる老作家は、精悍なトマス・アローヨ将軍率いるメキシコの反乱軍に身を投じ、そこで文字通り死を恐れない英雄的な戦闘を繰り広げます。

そこに登場するのがニューヨークからやってきた若くて美しい女教師ハリエット・ウインズロー。ここにお決まりの恋の鞘当て、愛の三角関係が始まる、とみせかけて実は老作家グリンゴとハリエットは実の親子なのです。

そうとは知らぬハリエットは恋敵のグリンゴを殺そうとするアローヨ将軍の人身御供となって、そのスレンダーで美しいプロポーションが眩い全裸を、野蛮人の前に惜しげもなく晒すのです。
飛んで火に入る夏の虫、蓼喰う虫も好き好き。落花狼藉を地でいく凌辱は深々と沈みゆくベッドの上で2度にわたって繰り広げられ、第1ラウンドにおいては獰猛な男が、リターンマッチにおいてはみずから2度目を求めた乙女が、当然のことながら勝利するのです。

あらすじを書いているうちに阿呆らしくなってきたのでこれくらいにしますが、いったい著者はアンブローズ・ビアスという素材を借りてきて、何を言いたいのかが、読めば読むほどわからなくなってくる世紀の迷作といえましょう。


♪この次はもう生きてはあらぬと思いつつテレビで眺むる皆既日食 茫洋

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