ふぁっちょん幻論 第51回
帝都唯一無二、本邦随一の衣服遺産の質量を誇る新宿南口甲州街道沿いの博物館が「赤い服」をテーマとした内外のコレクションを展示しています。
通常の展覧会の展示は、展示素材のそのもの=WHAT性(たとえばゴーギャン展、ルーブル展など)で集客をはかりますが、最近の傾向は、(たとえばだまし絵展、肖像画展など)素材の周辺=HOW性をテーマとするものが増えてきたようです。この「赤い服」展などはその最たるもので、この伝でいけば「白」や「黒」や「緑」などという切り口もでてくるのではないでしょうか。
会場にはわが国のみならず、アジア、アフリカ、南北アメリカ、ヨーロッパなど、時代もさまざまな世界各地の赤い民族衣装が所狭しと並んでいて壮観です。
私がはじめて外国と本邦の色の違いに気づいたのは、韓国の民族音楽「サムルノリ」の赤や黄や緑の差し物旗の目も覚めるような鮮やかさに接したときのことでしたが、本展に出品されている戦国時代の陣羽織や江戸時代の打掛、腰巻の華麗な赤にも心底驚かされました。
薄絹の赤い腰巻をじっと見つめていると、おのずとこの下着にくるまれたむっちりした下肢の乳色までもが想像され、その強烈なエロチシズムに圧倒される思いでした。当時のデザイナーはとうぜんそうした心理的機制を想定したうえでこの真っ赤な赤を紅花で染色したのでしょう。
それに比べるとアフリカやトリクメニスタンなどの中央アジアやベトナム、台湾などで使われている赤は、ここに並んでいるコレクションを見る限りは、彩度・明度・色相とも日本製よりもかなり低く、意外の感を与えます。国産のほとんどは中国やアジアからの輸入品で赤く染められていますから、このような彼我の偏りはどこからもたらされたのでしょうか?
しかし太陽や生命力の象徴である、これら大量の赤い衣服や服飾品を眺めているうちに、私は疲れきった心身に次第に生きる気力がよみがえってくるような気がしました。
ともかく理屈抜きに元気になれる展覧会であります。
♪赤い服着ていた女の子異人さんを連れて行っちゃった 茫洋
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