Friday, July 27, 2007

気色の悪い日本語

♪バガテルop23

とかく最近の日本語は、私のような世捨て人には格別に不可解である。

その1 立ち位置
『ミラノの3Gと称されたジャンフランコ・フェレが亡くなったが、彼の「立ち位置」はジョルジュ・アルマーニやジャンニ・ヴェルサーチとは少し違っていた…』
などと思わせぶりに使われるのだが、活字の見た目も、発音もはなはだ気持ち悪い。
いっそ「立ちションの立ち位置」なら許せそうな気もしますが、それにしても昔から「立場」という立派な日本語があるでしょうに。

その2 読み解く
この奇妙なエセインテリ?言葉は、そもそも出版社の新刊書の腰巻惹句から始まり、つい最近まで乱用されていたが、さすがに少し下火になってきたようでほっとしている。
例えば、
『安いウナギ今年が最後か? マリアナ海溝に潜む生物の謎を本書が読み解く』
『あのアユが、森理世が、ほんとにほんとの日本の美女? 激変する美意識の真相を読み解く』
のように安直に使用されるので、私はこれを「腰巻汚染」とはらり読み解いている。

その3 回収される
回収されるのはペットボトルだけかと思っていたら、ツエムリンスキーまで回収されることになっていたとはついぞ知らなんた。とうとう
『当夜の公演を聴いて改めて感じたのは、ツエムリンスキーを「絶賛批評」的なレトリックへ回収する難しさである。』 
などと、したり顔で書く音楽学者が登場したのである。(7月27日朝日夕刊文化欄岡田暁生氏関西フィル演奏会批評記事より引用)
ひとあじ違う言い回しにひきつけられた私は、岡ちゃんのこの気持ちの悪い文章を仕舞いまで丁寧に読んだが、結局どこのどいつがツエムちゃんを絶賛批評的なレトリックから回収することに成功したのか、脳力に超弱い私にはついぞ分からなかった。
岡ちゃんが自力で開発した言葉なのか、それともどこから盗用したのか知らないが、岡ちゃんはきっとこの最新流行の言葉をどこかで1回使ってみて、それから回収してみたくて仕方がなかったのだろう。 どーだ、やったぞ、決まったぞ! ばんざーい! 
てなもんだろう。極貧にあえぐ三流ライターとはいえ、私だって筆1本で渡世を渡る文筆業者だ。岡ちゃんのそのうれし恥ずかしい気持ちは分からないでもない。
されどこんなちょいと気の利いた当節風の言葉は、あと三年もすれば誰も見向きもしなくなっていると、どうして批評家ともあろう岡ちゃんは気づかないのだろうか? 
もしかして岡ちゃんは、今を去る20年前に「おしゃれなこと」を「ナウイ」とか「イマイ」とか言い、つい先ごろまで「おされな」などと言い換えてマンネリに陥るまいとあがいていた人々を先取りじゃなくて、後追いする人ではないだろうか?

その4 指摘か主張か
作家の柴田翔氏が、最近若者よりも大人の言葉が劣化している証左として、ある新聞が「談合に天の声、検察指摘」と書いたのがけしからんと怒っている。(日経7/24夕刊)
もし新聞が中立不偏の立場なら、検察と新聞の立場を同一視してはならず、(その意見には賛成)、その見出しは「談合に天の声、検察主張」でなければならない、というのである。 
されど、もとより後者のほうが分かりやすいと私も思うが、前者の表現が新聞が検察に肩入れした証拠になるのかどうか。別に指摘と書いたってそれほどの大事とは思えない。
しかしなんといっても言葉の専門家がおっしゃることだ。きっと私も、さうしてくだんの新聞記者も、左脳が超超劣化しているのだらう。

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