Saturday, February 21, 2009

永井荷風、西洋料理を論ず

ふあっちょん幻論第40回 メンズ漫録その18 断腸亭主人紳士洋装論最終回


ゼントルメンともあろう人物が、洋服に憂き身を窶しても料理にはてんで構わないのはまことにおかしい。

そもそも西洋料理の出来栄えは、コンソメ、吸い物を味わえば、そのすべてがわかる。フルコースなど喰らう必要はないのである。

1926年(大正15年)現在、本邦の西洋料理のベストは、横浜・神戸のホテル、銀座、神田小川町の順である。されどデザートや洋酒の備蓄が弱いのは残念なり。白ぶどう酒はボルドー産は甘すぎて食事に適せず。すべからくライン産を備えよ。

銀座周辺地区においての第一位は銀座竹川町コットなりしが、今はなし。日比谷帝国ホテル、築地明石町オテルサントラルよろしからず。けだし東都最美味は虎ノ門東京倶楽部なるべし。されど外交官、華族集会場なれば身分なきものは出入りしがたし。

銀座南鍋町の風月堂良し。木挽町精養軒、芝口有楽軒、京橋三橋亭だめなり。麹町富士見軒、新橋金春通り壷屋よし。

東京市中でアイスクリームが登場したのは明治32、3年頃のことなり。当時はチップを1割与えしものなり。

浅草公園の料理屋に個々のテーブルなく、NYウオール街のレストランのごとくカウンターで食事するスタイルの食堂あり。これ本邦の最新型スタイルなるべし。

されど、売春婦を写真と切符で買う国民は、世界広しといえども日本国のみならん。浅ましきこと限りなし。


嵐の夜西御門の哲人セネカのごとく逝けり江藤淳 茫洋

雷鳴が轟き渡る西御門セネカのごとく自刃せし君 茫洋

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