Sunday, June 08, 2008

五味文彦著「躍動する中世」を読んで その1

照る日曇る日第128回

小学館の「日本の歴史」の第5巻、新視点中世史「躍動する中世」である。
著者によれば中世社会の特徴は次の5つであるという。

1) 疾病や飢饉が襲い来るなか、ひたすら神仏にすがり、これが中世人の政治・経済・文化・社会に大きな影響を与えたこと。例白川、鳥羽、後鳥羽院の熊野詣、平清盛の厳島神社詣、頼朝の鶴岡八幡宮詣と彼らの神託政治。応仁の乱にはじまる国際的な政治変動、長禄・寛正の疾病や飢饉などは15世紀の寒冷期(小氷期)の影響が大である。

2) 当時の内外情勢によって国内の地域社会の原型がつくられた。

3) 貴族・武士・庶民などさまざまな身分の諸階層にイエが形成され、主従関係を柱にしながらも、ウジではなく、イエを媒介とする多様な人間・社会関係が醸成された。

4) 古代律令国家における権力が弛緩し、分権化した。中央では寺社・権門が、地方では開発領主など自立した地域権力が形成されて多重権力状態になり、内乱も起こった。

5) 中世人は権力に頼らず、自力による救済を求め、各地で強訴や一揆、訴訟が起こったために中央権力はその対応に追われ自滅の道をたどったが、やがて応仁の乱を経て分権的社会から集権的社会へと変遷していく。

以上、身も蓋もない総括であるが、中身は充実していて、ことに前半の章は力作であるが、後半の最後のほうは雑多な情報を脱兎のごとく書き飛ばしてある。締め切りに追われて描き飛ばしたのだろう。
全体の構成も中途半端であり(特に最後の時代設定の項)、同じ著者による前著「王の記憶」に比較すると完成度はさほど高くない。時折加えられる網野善彦への上っ面の小出しの批判というより悪口も不愉快だ。批評するなら故人の存命中に本人の目の前で徹底的にやってほしかった。

♪毒喰わばさろうてご覧と鳥兜がいうた 茫洋

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