茫洋物見遊山記第24回&鎌倉ちょっと不思議な物語第216回
連休の最後の日、八幡様の斃れた大銀杏あちこちから緑の新芽が元気よく伸び始めているさまを見物してから、お馴染みの美術館にやって来ました。
1951年に坂倉準三設計の建築で日本に初めてできたこの公立近代美術館は、周辺の緑と水に溶け込んだ落ち着いた佇まいで、それ自体がひとつの美術品の様相を呈しおり、近所の葉山館や、東京のあちこちに続々誕生した醜悪で陋劣な犬小屋美術館どもと鮮やかなコントラストをなしています。
私はこの静謐でこていな美術館を訪れるたびに、改めて「建築の進歩」を唱える人たちの愚かさに気づくのです。
さてそぞろ内部に進み行っても恒例の収蔵品展ですから、黒田清輝の「逗子五景」、有島生馬の「赤い門のある家」、萬鉄五郎の「裸婦」、岸田劉生の「野童女」など、その大半が見覚えのある作品ばかりです。
とりわけ佐伯祐三の「門の広告」や関根正二の「女の顔」などを見ると、「おお、君たち元気にしていたか。いいね、いいね、ほんとにいい絵だね」と思わず声を掛けてやりたくなります。
本来はあっという間に消え去るはずのパリの広告が、祐三のおかげで芸術作品となって永遠の命をとどめている姿や、生きていることのあかしを、その力強いデッサンの描線にくっきりとどめている関根正二のスケッチを一瞥するだけで、私は「ああ、藝術は良いなあ。生きていて良かったなあ」と心の底から思うのです。
そうして、なんのことはない、この小さな美術館の油絵たちは、ぜんぶ、ぜんぶ私のコレクションなのでした。
追伸 本展は来る5月30まで当地で開催されています。
♪今日もまた鏡の前でMGMのライオンのごとく三つ吠えたり 茫洋
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