Friday, May 28, 2010

佐藤賢一著「王の逃亡」を読んで

照る日曇る日第346回

血わき肉躍る「小説フランス革命」も、いつのまにやら第5巻となりました。
ヴェルサイユからあほ馬鹿おばさん連中によってパリのチュイルリー宮に拉致されていたルイ16世は、なにをとち狂ったのかマリー・アントワネットの情人と噂のフェルセン伯の先導で国外逃亡を図ります。

 しかし様々な労苦と蹉跌の後、あと一歩というヴァレンヌの地で、とうとう王本人であることがばれてしまったルイ御一行さんたちは、逃亡に気付いた国民議会の追手につかまってしまうのです。

この小説のもっとも面白い箇所は、フランス王国の王様ともあろう人物がコルフ男爵夫人ことマリー・アントワネットの執事デュランに扮装して、ヴァレンヌ町の助役ソースと吉本興業的漫談を取り交わすところでしょう。

そこでは王などという肩書を取り払った、あるいは取り払われた生身の、結構機転のきく、人の良い、太ったおっさんの等身大の姿が浮かび上がり、身分や地位や権威や権力というもののあほらしさがはしなくも逆照されているのです。

国民議会の右派、左派、中間派を代表する3名の議員に強引に逃亡用の大型ベルリン馬車に乗り込まれたルイ6世の周章狼狽ぶりもあざやかに活写されていて遺漏がなく、さあこれからフランス革命はいったいどうなるのだろう、とハラハラドキドキさせてくれる著者の手腕は見事です。

瓶というものに惹かれる資本蓄積を思わせる故なるか 茫洋

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