双頭のメデューサ
あるいはゴッダムシティのツインタワー
世界のタンゲが、1986年に日本に帰還し、あの新都庁舎コンペに劇的に勝利したとき、当時72歳の孤高の建築家には、すでに分かっていたのだ。
自分がゴッダムシティにつくった新都庁ビルが、その後史上最低の知事によって占拠され、醜悪な政治の伏魔殿と化すだろうことが。
そこでわれらがタンゲは、当初の計画どおり94年に新宿パークタワーという社交界の秘密交際と性の巣窟をつくったのだった。
すると案の定、全世界の有名タレントや芸能人などがワンサカ、ワンサカやって来た。
自分のヒルトンに泊まればただなのに、あのヒルトン姉妹までやって来た。
かくして、いわゆるセレブの隠れ家となったこの最高級ホテルは、右翼方向から流れ込む政治的なパワーに、左翼から性的に対抗することによって、憎悪と愛の定立と相互調和(アウフヘーヴェン)を図ろうとした。
といっても良い子の皆さんはなんのことだかわからないだろうから、
要するに「毒をもって毒を制する」ことにしたわけ。
この2つのビルジングは、それぞれが独立した建物ではない。両々あいまってはじめて建築的価値が生まれてくる内面的なツインタワー、なのである。
それゆえに、新宿駅南口から副都心方向に向かって、かつての武蔵野を国木田独歩のように歩むひとは、政と性との世界最高峰における同時多発的バトルを眺望することができるだろう。
そして、これこそが晩年の丹下健三が企んだ秘かなランドスケープ・デザインの「きも」だったのだ。
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