Friday, December 04, 2009

パッパーノ指揮コヴェントガーデン歌劇場管で「ワルキューレ」を視聴する

♪音楽千夜一夜第98回

2005年7月18日にロイヤル・アルバートホールで行われた「プロムス05」のワーグナー上演のライブビデオです。プタシド・ゴミンドがはじめてプロムスに登場したことで話題になりましたが、そんなことより(この時点で)彼の衰えを知らない豊かな声量と巧みな歌いまわしに魅了されます。

そのドミンゴ扮するジークムントの恋人であり妹役のジークリンデには練達のメッゾ・ソプラノ、ヴァルトラウト・マイヤー、ウオータン役にはバスバリトンのブリン・ターフェル、表題役にはソプラノのリサ・ガスティーンという豪華な配役です。

そしてこれらベテラン揃いの充実した歌唱を、イタリア出身の指揮者アントニオ・パッパーノがじつに手際よく、パッパと引っ張っていきます。
59年生まれのパッパーノは、各地の歌劇場でコレペティトールをつとめ、大野和士の前にモネ劇場のシェフであり、バイロイトにはローエングリーンでデビューを飾った、いわばたたき上げのオペラ指揮者。初めは処女のごとく悠揚迫らぬテンポでオーケストラを歌わせ、半ばではワルキューレの女騎士たちを見事にうねらせ、終わりはワルハラの神殿を紅蓮の炎で燃えあがらせます。コンサート指揮者上がりの小沢某なぞには及びもつかぬ見事なテクニックといえましょう。だいたい歌手やオーケストラをやすんじてドライブさせえない人間がオペラハウスなぞに足を踏み入れてはいけないのです。

兄と妹の許されざる恋、そして父と娘の異常なまでの愛、そして神々の世界の崩壊という3つの主題をもつこの神聖な楽劇を、パッパーノとコヴェントガーデンのオーケストラは過不足なく表出していました。

この公演はコンサート形式で行われたのですが、当節の下らない演出を排し、ヴィーランド・ワーグナーの時代に先祖返りしたような単純で簡素な歌手たちの振舞いが、かえってこのオペラとワーグナーの音楽の本質を力強く闡明していたようでした。



  ♪あほばか指揮者と演出家よ去れ神聖なるオペラの殿堂から 茫洋

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